
それでは、今回はカルシウムの調整機構をみていきたと思います。
今回はとても重要な範囲です。
仮に医学部が血糖や血圧の変化にかかわるホルモンが大事だとすると、硬組織を扱う歯科ではこのカルシウムの調整がとても重要です。
もちろん、血糖・血圧も大事ですけどね。
ポイントは以下の2つです。
① 血清カルシウム濃度を上昇させるのはPTHやビタミンD
② 血清カルシウム濃度を減少させるのはカルシトニン
最低限、下のイラストの流れだけでも覚えていただければと思います。

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目次
カルシウムの働き

私たちのカルシウムは、リン酸とともに骨の物理的強度の保持に関与します。
細胞外液中は、Caイオンとして血液凝固や神経系による刺激の伝達、筋肉の興奮-収縮連関など生理的な機能を維持するための役割として重要です。
また、細胞内ではサイクリックAMP (cAMP) のように細胞内の情報伝達に重要な役割を果たしています。
カルシウムがこれらの機能を滞りなく果たすためには、骨や細胞外液、細胞内液の間のカルシウムの移動、つまり、カルシウムの恒常性が厳格に保たれなければなりません。
そのために、脊椎動物にはカルシウム調節ホルモンと総称される一群のホルモンが用意されています。
血清カルシウムの恒常性

血清のカルシウム濃度は、生理的定数といわれるほど厳格に
9〜10mg(2.5mM)/dl
の範囲に維持されています。
この値が半分ほど高くなっても、低くなっても、私たちは死に至ります。
これを血清カルシウムの恒常性(ホメオスタシス)といいます。
この恒常性を維持するために、骨は1日平均300mg のカルシウムを取り込み、血中に同じ量の分を放出します。
なので、よく「妊娠すると胎児にカルシウムを供給するため虫歯になりやすい」という話がありますが、これはまったくの噂話になるということです
これは妊婦が自分の骨のカルシウムを犠牲にして胎児にカルシウムを供給するためで、歯のカルシウムは利用されないということです。
そして、体内のカルシウム濃度を維持するため、吸収としての十二指腸、貯蓄の骨、排泄口としての腎臓の3つが関わります。
また、それらが役割を果たすために
体内にはビタミンD、副甲状腺ホルモン、カルシトニン
という3つのホルモンが用意されています。
血清Ca濃度の調節

血清Ca濃度が低下すると、副甲状腺から副甲状腺ホルモン(PTH) が分泌されます。
PTHは骨に作用して骨吸収を促進し、骨から血液中にCaイオンが流出します。
また、PTHは腎臓にも作用してCaの再吸収を促進させ、さらに活性型ビタミンD[1α,25 (OH)2D3]の生成を促進します。
活性型ビタミンDは小腸に作用して腸管からのCaの吸収を促進。また骨に作用して骨吸収も促進させます。
これらの結果、血中のCaイオン濃度が上昇していきます。
一方、Caイオン濃度が高すぎると、甲状腺からカルシトニンが分泌されます。
カルシトニンは骨に作用して骨吸収を抑制。その結果、血中のCaイオン濃度は下降していきます。
この後、細かくホルモンの紹介がありますが、ここの見出しの範囲だけしていただけばOKだと思います。
副甲状腺ホルモン(PTH パラソルモン)

PTH は副甲状腺(上皮小体)から分泌されるホルモンです。
血中のカルシウム濃度を上昇させます。
PTHの作用
PTHの主な標的器官は骨と腎臓です。
腎臓では、ビタミンD を活性化。活性化されたビタミンDは小腸でのカルシウムの吸収を促進し、血中のカルシウム濃度を上昇させます。
PTH の合成・分泌は、Ca2+と活性型ビタミンD [1α,25 (OH)2D3]の血液中の濃度により抑制的に調節されています。
骨への作用
PTHによる骨の作用はすべて骨芽細胞を介して発現されます。
骨芽細胞膜上にあるPTH受容体に作用し、cAMP依存性プロテインキナーゼA(PKA) の情報伝達系よりRANKLの発現を誘導。さらにオステオプロテゲリン(OPG)の産生を抑制します。
その結果、破骨細胞の活性化は促進され、骨の吸収が開始。血中カルシウム濃度を上昇させます。
腎臓への作用
PTHの腎臓での作用は3つあります。
まず1つ目は近位尿細管におけるビタミンD の活性化の促進。
2つ目は遠位尿細管でのCa2+再吸収。
そして、3つ目は近位尿細管におけるリン酸の再吸収抑制です。
ビタミンD3は肝臓で25 位が水酸化されたのちに、腎臓の近位尿細管で1α位が水酸化され、活性型ビタミンD [1α,25(OH)2D3]となります。産生された活性型ビタミンDは小腸に働いてCa2+の吸収を充進させます。
腎臓の糸球体において濾過されたCa2+は、近位尿細管で60〜70%、遠位尿細管で30〜40%が再吸収され、全体のわずか1〜2% が最終的に尿中に排泄されます。
そして、PTHは遠位尿細管における能動輸送によるCa2+の再吸収を促進させます。
一方、糸球体から濾過されたリン酸の80%以上はNa十との共役輸送により近位尿細管にて再吸収。
PTH はこれを抑制し、尿中へのリン酸の排泄を促進させます。
PTHの調整
カルシウムによる調整
副甲状腺は生理的条件下でPTHを合成・分泌する唯一の器官です。
血液中のCa2+の濃度変化を副甲状腺細胞のカルシウム受容体が感知してPTHの合成・分泌を調節します。
血清カルシウム濃度の上昇によってPTHの合成・分泌は抑制され、低下によって促進されます。
カルシウム受容体は副甲状腺細胞のほかにも、甲状腺のカルシトニン分泌細胞や腎臓の尿細管細胞にも発見されています。
活性型ビタミンDによる調整
活性型ビタミンDは、血清カルシウムの上昇を介して間接的にPTH分泌を抑制。
副甲状腺細胞に存在するビタミンD受容体に結合し、PTH遺伝子の発現を抑制します。
ビタミンD

ビタミンD は、ビタミンA・E・K と並んで脂溶性ビタミンの一つです。
脂溶性はビタミンだけ(DAKE)
ビタミンDの作用
骨への作用
ビタミンDは骨芽細胞が持っているビタミンD受容体に結合します。
その後、骨芽細胞を介して破骨細胞による骨吸収を促進し、血中カルシウム濃度を上昇させます。
また、ビタミンDは骨芽細胞における各種の特異タンパク質(オステオカルシンやマトリックスGlaタンパク質、オステオポンチン、Ⅰ型コラーゲンなど)などの産生も促進させます。
小腸への作用
活性型ビタミンDは小腸の吸収上皮に存在するカルビンディンDの合成を促進。
カルビンディンDはカルシウム結合タンパク質です。
その後、合成されたカルビンディンDが小腸でのカルシウム吸収を開始します。
小腸でのカルシウム吸収の開始に必要なだけではなく、カルシウム吸収の充進に伴う細胞内のカルシウム濃度の上昇を防ぐ一種の緩衝タンパク質、あるいは細胞内でカルシウムイオンを粘膜側から漿膜側へと輸送するタンパク質として働くと考えられています。
ビタミンDの代謝
食物あるいは皮膚の紫外線照射から体内に取り込まれたビタミンDはまずは肝臓に集まります。
肝臓に集まると、ミクロソームとミトコンドリアに存在する25-水酸化酵素(CYP27) により側鎖の25 位が水酸化されて、25-ヒドロキシビタミンD3[25(0H)D3]になります。
25-ヒドロキシビタミンD3はビタミンD結合タンパク質と結合して血中を循環します。(ビタミンDは脂溶性なので、そのままだと水のような血中には溶けていかないということですね)
その後、25-ヒドロキシビタミンD3は腎臓の近位尿細管に取り込まれます。
取り込まれた25-ヒドロキシビタミンD3はPTHの誘導を受けて1α位が水酸化された1α,25(OH)2D3、つまり活性型ビタミンD3に代謝されます。
腎臓における1α位の水酸化反応は、血清カルシウム濃度によって厳格にコントロールされています。
もし、血清カルシウム濃度が9mg/dl以下の場合は1α,25(OH)2D3だけが合成され,逆に血清カルシウム値が9mg/dl 以上になると合成は停止します。
また、産生された1α,25(OH)2D3はきわめて強力な血清カルシウム上昇作用を有するので、必要以上の1α,25(OH)2D3が合成されるとネガティブフィードバック機構が働いて、1α位水酸化反応を停止させます。
カルシトニン

生理学的に最も重要なカルシトニンの作用は、破骨細胞に作用して骨吸収を抑制し、血清カルシウム濃度を低下させることです。
それ以外にも、胃酸分泌の抑制や食欲抑制、鎮痛作用などが知られているが、薬理的作用の詳細はまだ不明な点が多いです。
カルシトニンの分泌に影響するのは、カルシウム濃度。
血中のカルシウム濃度が上昇すれば、カルシトニンの分泌量は増加し、逆にカルシウム濃度が低下すれば、カルシトニンの分泌量は低下します。
カルシトニンの分泌は甲状腺の傍細胞から分泌されます。
カルシトニンの作用
骨への作用
骨組織でカルシトニン受容体をもつ細胞は破骨細胞だけです。
骨芽細胞にはカルシトニン受容体がありません。
破骨細胞にカルシトニンを作用させると,まず破骨細胞の波状縁の動きが停止。破骨細胞の容積が減少します。
やがて破骨細胞は骨表面から剥がれ、その結果、破骨細胞による骨吸収は停止します。
腎臓への作用
カルシトニンは腎臓の遠位尿細管に直接作用し、リン酸、Ca2+、Mg2+、Na+、 Clーなどの尿中への排泄を増加させます。
また、カルシトニンはPTHと同じように、腎臓におけるビタミンDの活性化を促進。とはいえ、ビタミンDの活性化に及ぼすカルシトニンの生理的役割についてはまだ不明です。
消化管への作用
カルシトニンは胃酸分泌を抑制し、小腸の嬬動運動を抑制します。
そのために、カルシトニンを過剰投与すると食欲不振になることがあります。
中枢神経系への作用
視床下部や間脳、脳幹部などにもカルシトニン受容体が存在します。
これらの部位は、摂食行動や痛覚などの中枢でもあり、カルシトニンの鎮痛作用や摂食行動抑制作用は中枢神経系由来であるとも考えられています。
まとめ
だいぶ長くなってしまいました。
つらずら書いていますが、まとめます。
ポイントは以下の2つです。
① 血清カルシウム濃度を上昇させるのはPTHやビタミンD
② 血清カルシウム濃度を減少させるのはカルシトニン
ぜひ、過去問と一緒にご参考ください。
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