歯髄疾患(2020年1月20日更新)【歯内療法学】



数多くの研究により、臨床症状に基づく診断と病理組織学的診断が一致することが非常に難しい歯髄疾患。当然、歯髄疾患の診断を確定するのには、歯髄組織を取り出して標本を作る必要がある。しかし、現実的には難しい。

そのため患者の症状や診査・検査に基づく臨床的分類が示されている。そして、最も重要な点は、歯髄が保存可能か、保存不可能かを判定することである。

タイトル

循環障害
・歯髄充血

炎 症
①急性歯髄炎
 ・急性単純性(漿液性)歯髄炎
 ・急性化膿性歯髄炎
 ・急性壊疽性歯髄炎
②慢性歯髄炎
 ・慢性潰瘍性歯髄炎
 ・慢性増殖性歯髄炎

退行病変
 ・歯髄壊死、歯髄壊疽
 ・歯髄変性

原 因

さまざまな外来刺激が歯髄に加わることで歯髄疾患が生じる。一般的な原因は、細菌的、物理的、化学的、その他に分けられる。また、保存修復学的にみると、術前・術中・術後に生じる刺激として分類されることもある。

細菌的原因

臨床的に最も多くみられ、歯髄への感染経路としては歯冠側と根尖側の2種類。

歯冠側からの細菌感染

齲蝕や外傷による歯冠破折、咬耗の進行による露髄、支台歯形成時や窩洞形成時の露髄などがある。

根尖側からの細菌感染

歯周ポケットや隣在歯の根尖病巣などによる上行性の感染。まれに、菌血症などにより血行性に感染が生じる場合がある。

物理的原因

① 機械的刺激:咬合力(咬耗、摩耗、アブフラクション、歯の亀裂など)、切削、外傷など

② 熱刺激:窩洞形成時の切削熱や熱伝導性が高い修復物など

③ 電気刺激:ガルバニー電流や電気メスの過剰使用など

④ 気圧変化:航空性疼痛

化学的原因

おもに歯科材料によるものであるが、現在、使用されている歯科用セメントや修復材料の刺激性はそれほど大きくない。

歯髄充血

歯髄の一部がごく軽度の炎症状態となっている(歯髄炎ではない)疾患。原因となった刺激を除去することで正常な状態に戻る。急性単純性歯髄炎と比較して病理組織像では炎症性細胞の浸潤はあまりみられず、血管の拡張を主とするため、一般的な炎症と区別される。

原 因

・切削時の発熱や機械的刺激、深い象牙質齲蝕などが多い。

検査所見

・電気診:正常歯髄とほとんど同じ。閾値の低下がみられることもある。

・温度診:冷刺激に反応

・自発痛:なし

・打診痛:反応なし

・特徴的所見: 一過性(数秒〜1分未満)の鋭痛。原因を除去すれば痛みの持続はない。

治 療

可逆性であるため、歯髄保存療法が適応。

・歯髄鎮静法

・間接覆髄法

急性単純性(漿液性)歯髄炎

刺激により急性症状があらわれた漿液性の歯髄炎。歯髄組織にはリンパ球などの炎症性細胞の浸潤がみられる。

露髄はみられないため、基本的には可逆性の歯髄炎に分類されるが、歯髄炎における可逆性の診査は未解決の部分も多く、判断に迷う場合には待機的歯髄診断が適応となる。

検査所見

歯髄の保存の可否は傷害の程度によって判断される。そのため、一部性か全部性かの鑑別が重要となる。

・電気診:正常もしくは閾値が低下

・温度診:冷刺激で敏感に反応。誘発痛は1分以上持続する。

・自発痛:間歇的な自発痛。全部性では放散性の激痛もみられる。

・打診痛:一部性では反応なし、全部性では打診痛がみられることもある。

治 療

・歯髄の保存が可能:歯髄鎮痛消炎療法、間接覆髄法

・根部歯髄のみ保存が可能:生活歯髄切断法

・歯髄の保存が不可能:抜髄法

急性化膿性歯髄炎

歯髄に細菌感染がみられる化膿性炎。基本的に細菌感染が起こった歯髄は保存不可能なため、不可逆性炎に分類される。

炎症の一般的な所見のほか、漿液性歯髄炎ではみられなかった多形核白血球(おもに好中球)の浸潤が高度にみ
られ、膿瘍が形成される。さらに進行すると炎症は蜂窩織炎性に拡大していく。

検査所見

・電気診:正常もしくは閾値が低下、歯髄の炎症が進行すると閾値は上昇する。

・温度診:温刺激に反応し、冷刺激によって緩和

・自発痛:拍動性の自発痛あり。夜間や入浴時に増悪し、患歯の明示が困難。

・打診痛:一部性では反応なし。全部性では打診痛がみられることもある。

・特徴的所見:露髄もしくは仮性露髄がみられる。

治 療

・抜髄法:不可逆性炎で歯髄の保存は不可能なため。

・根未完成歯においては、歯髄切断法が適応となる場合もある。

急性壊疽性歯髄炎

急性化膿性歯髄炎が腐敗菌の感染を受けた疾患。歯髄が一部壊疽しているものをいう。化膿性炎からさらに壊疽性炎へと進行すると歯髄は無構造となり、壊疽性物質の沈着がみられる。

検査所見

・臨床症状は急性化膿性歯髄炎と同様。

・根管からの腐敗臭が特徴。

治 療

・抜髄法:歯髄の保存は不可能。

慢性増殖性歯髄炎

若年者の歯髄では抵抗性が高い。そのため、露髄面に肉芽組織(歯髄ポリープ)が形成されることがある。

治 療

・抜髄法:基本的な対応だが、歯髄の抵抗性が高いことから生活断髄法が適応となる場合もある。

慢性潰瘍性歯髄炎

露髄面に潰瘍を形成したもの。潰瘍の深部には線維化した肉芽組織がみられる。

治 療

・抜髄法:基本的な対応だが、根未完成歯では生活断髄法を行う場合もある。

上行性歯髄炎

根尖孔もしくは根管側枝から歯髄への感染が起こる歯髄炎。歯周ポケットの深化や隣在歯の根尖病巣が原因となる。また、まれに菌血症が原因となることもある。

上行性歯髄炎の定義は感染経路によるものなので、慢性的に経過する場合もある。

根尖方向からの感染のため、根部歯髄の保存は不可能であり、抜髄
が適応となる。また歯周炎から続発した場合、歯内−歯周疾患とな
るため単独の歯髄炎と比較して治療は困難となる。

検査所見

初期はほとんど無症状。疾患の進行で以下の症状がみられる。

・電気診:正常に反応

・温度診:冷・温水痛あり

・自発痛:あり

・打診:あり

・特徴的所見:深い歯周ポケットがあるが、齲蝕はみられない。ほか、根尖にいたるエックス線透過像など。

治 療

歯髄壊死・歯髄壊疽

歯髄が失活しており病変が歯内に限局している疾患。細菌感染を伴わないのが歯髄壊死。細菌感染を伴うのが歯髄壊疽である。

検査所見

・歯髄電気診や温度診:反応なし。歯髄は失活しているため。

・自発痛:ほとんどない。

・特徴的所見:壊死物質の沈着により、歯の変色がみられることがある。

・打診痛:根管内の病変のため、ほとんどみられない。

・エックス線所見:根管内の病変のため、ほとんどみられない。

・嫌気性感染により著しい腐敗臭。

治 療

・感染根管治療:歯髄が失活しているため。



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