
「勝手に線を引かれて義歯の浮き沈みを語られる…。」
「鈎尖の向きによって回転沈下に抵抗したりしなかったり」
「シーソーの例え話がわかりやすいんだが、わかりにくいんだが」
と混乱する人も少なくない支台歯間線。
今回は、そんな支台歯間線が苦手な人に向けての記事です。定義の確認から問題の解き方を
通して、少しでも理解の一助になれば幸いです。
支台歯間線とは

部分床義歯では、咀嚼圧や横揺れなどさまざまな力が加わります。
その力は咬合圧や義歯の離脱力だけではなく、レストを中心に回転するものもあります。
そして、その回転の軸を仮想したものが支台歯間線(鉱間線)です。支台歯間線は直接支台歯装置、とくにレストの部位を結んだ線になります。
たくさんの欠損がある症例も下の写真と同じようにレストを結んだ線が支台歯間線です。

沈み込み・浮き上がり〜軸を中心とした回転〜

では、義歯は支台歯間線を中心にどんな回転をするのでしょうか。
それが上の図です。
咀嚼圧が加わると、レストにあたる回転軸を中心に義歯の遠心が浮き上がったり、沈み込んだりします。(説明は省いてますが、垂直の力に対して義歯はなぜ、浮き上がるのかという疑問を持った方へ。粘着質の食べもを食べたときなど義歯は浮きあがることを想像してもらえればいいかと思います。)
とくに、回転によって沈み込むことを「回転沈下」、浮き上がることを「回転離脱or脱離」ともいいます。このような言い換えも問題の選択肢に出てくるので、頭の片隅に置いておくといいかもしれません。
もう一つ、回転沈下・離脱の話のときは、シーソーを例える考え方も重要です。
シーソーは支点を中心にどちらか一方が沈み込めば、片方は浮き上がります。
これは、部分床義歯における支台歯間線にも同じことがいえます。
下の症例を考えてみたいと思います。

① ②
4」の遠心にあるレストと⌊7の近心にあるレストを線で結んで支台歯間線を作ります。
そして、その支台歯間線をシーソーでいう支点として考えれば、前歯部が浮き上がるとき、右側臼歯部は沈み込みます。逆に、前歯部が沈み込む場合は右側臼歯部は浮き上がります。
さらにこの症例は3本の支台歯間線が考えられので、回転沈下・離脱は上のものも合わせて6通り考えられます。(理論的に)
③ ④
⑤ ⑥
ここで、注意してほしいことは、理論的にはさまざまな回転の動きが考えられますが、問題解説等の際は義歯が動きやすいであろう回転軸をメインとして考えているということです。
なので、この症例の場合は、前歯部から左側臼歯部にかけて欠損であるため、咀嚼圧などで沈み込む動き②を主に考える必要があるということです。
③は4」のレストがあるため前歯部の沈み込みが少なそうです。
同じく⑤も⌊7のレストがあるので沈み込みが少なそうです。
よく、いきなり支台歯間線を引いて問題解説が始まりますが、その背景には回転の少ない症例は省いて考えているということです。
回転に抵抗するには
次に必要な考えは回転する力を抑えるにはどうしたらよいかということです。
とはいえ、回転といっていますが、本質は沈下と離脱です。なので、沈下に対しては支持(補助的なスパーなど)を、離脱に対しては維持(クラスプの鈎尖など)の力を考えるということです。




上記の症例の場合、5⌉と⌈5のレストを中心に支台歯間線を引くと、遊離端が沈下する場合と浮き上がる場合が考えられます。
そんな回転の動きに対してキーとなる設計は5のクラスプと4の間接支台装置(レスト)です。
それでは、それぞれの動きでクラスプや間接支台装置がどのように働くかを考えてみたいと思います。
遊離端が沈み込むとき、前歯部は浮き上がります。その浮き上がりに抵抗するために、クラスプの維持の力が働きます。(このとき、4の間接維持装置はなんの役にも立ちません。)

逆に、遊離端が浮き上がるとき、前歯部は沈み込みます。その沈み込みに抵抗するために間接維持装置(レスト)の支持の力が補助的に働きます。(このとき、5のクラスプはなんの役にも立ちません。)

このように、ある力が加わったとき、役に立っていた装置も、逆の力が加わればなんの意味もなさないということです。
複雑な問題に出くわしたとき、必要な考え方になってきますので念頭に入れておいていただければ幸いです。
それでは実際に問題を解きながら理解を深めていきたいと思います。
追記:ちなみに下の症例の場合、4」クラスプ頬側鈎尖が役に立つのは、鈎尖部に浮き上がりの力が働いたときです。



過去問
101A88
部分床義歯の間接支台装置で正しいのはどれか。2つ選べ。
a 義歯の回転を防止する。
b フックが用いられる。
c 支台歯間線に近接して設置する。
d 直接支台装置の維持力に拮抗する。
e 欠損部顎堤の延長線上に設定する。
105A45
義歯設計の模式図(別冊No.00)を別に示す。


矢印が示す支台装置の機能はどれか。1つ選べ。
a 義歯の破折防止
b 着脱方向の規定
c 義歯の剛性の向上
d 粘膜支持力の向上
e 遊離端部の浮き上がり防止
107D26
可撤性部分床義歯の写真(別冊No.00A)と口腔内装着時の写真(別冊No.00B)とを別に示す。
矢印で示す部分の目的はどれか。2つ選べ。
a 義歯の把持の向上
b 支台歯の移動の防止
c 義歯床の回転沈下への抵抗
d アンテリアガイダンスの付与
e 義歯床遠心端の浮き上がりの防止
108C87
上顎部分床義歯の写真(別冊No.00A)と義歯装着時と義歯撤去時の口腔内写真(別冊No.00B)を別に示す。


矢印で示す支台装置が防止するのはどれか。2つ選べ。
a └7支台装置の離脱
b 3┘支台装置の離脱
c 8┘支台装置の離脱
d 2┴6義歯床の回転沈下
e 2┴6義歯床の浮き上がり
まとめ
ちょっと文章量が多くなってしまいすいません。
まとめです。
・支台歯間線は直接支台装置のレストを結んだ線である。
・支台歯間線を引くと、沈み込みと浮き上がりがシーソーの原理のように働く。
・浮き上がりには維持の力で対抗する。
・沈み込みには支持の力で対抗する。
正答率が伸び悩む内容なので、ゆっくりと理解を固めていただければと思います!
追記:最後に、下の図のように、同じような設計でもクラスプの向きによって回転に対する働き方は異なります。
右の図の緑色のクラスプは浮き上がりに対して拮抗しています。しかし、左の図のように向きをかえると、緑色のクラスプは沈み込み対してなんの働きも起こしません。


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