
口唇裂は一次口蓋の癒合不全のため、程度の差はあれど顎裂を伴っていることが多い。
口唇は胎生4~8週に形成。一次口蓋は胎生4~7週、二次口蓋は胎生7~12週までに形成される。
つまり、口唇・口蓋裂は、その経過中のさまざまな障害によって生じる。
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原 因
口唇裂や口蓋裂のような症候性のない顔面裂の発生は遺伝的要因と環境的要因が重なり合ってかかわり合う「多因子閾説」と考えられている。
・環境的要因:母体や子宮を取り巻く環境。
・化学物質など:睡眠薬、副腎皮質ホルモン、抗てんかん薬など
・物理的要因:放射線被曝、低酸素、感染症による発熱など
・感染:ウイルス、細菌、原虫など
・母体の健康状態:糖尿病。栄養障害など
・遺伝的要因:口唇裂・口蓋裂が多発する家系に多く確認される。
さらに患者と血縁者内患者との発言様式が似ていることから遺伝的要因が示唆されている。
健康な人でも実は口唇裂や口蓋裂を発生させる要因をもっている。
しかし、一つひとつの要因が小さくても、重なり合うことで一定の閾値を超え、口唇裂・口蓋裂を発生させるという考え方である。
疫 学
・多くは上唇に生じ、下唇に生じることはまれ。
・下唇に生じたものを正中下唇裂という。
・男児>女児
・両側性<片側性
・右側<左側(左側のほうが約2倍多い)
左側が右側に比べて血液循環量が少ないからと考えられている。
胎児の心臓では右側内頸動脈が近接し、かつ大動脈弓の走行が一致している。
よって、左側に血流量が少なく、顔面の隆起の発育に不利と考えられている。
分 類
・不完全唇裂:破裂が外鼻孔まで達していないもの。
・完全唇裂:破裂が外鼻孔まで達しているもの。
他にも単純唇裂、皮下唇裂、複雑唇裂があるが、一般的に完全唇裂が多い。
治 療
口唇裂の問題は審美障害と哺乳障害。そのため口唇を作る口唇形成術や口唇修正術が行われる。
手術可能となるまではHotz床を装着して吸啜力増強や哺乳指導による栄養状態、全身状態のケアを行う。
審美性の改善と口輪筋の再構成がおもな目的。口輪筋の再構成は哺乳・摂食機能も二次的に改善される。
Hotz床
口唇・口蓋裂の一貫治療で行われる最初の術前治療。
透明なレジンから構成され、軟口蓋部に栓塞子を有している。
床を装着することにより、哺乳の改善・舌の定位置化・顎骨の発育誘導を行える。
手術時期の目安
生後3~6か月、体重が5~6 kg。
哺乳運動による口輪筋の発達や手術部の組織量の増加によって手術に必要なラウンドマーカーが明瞭になるうことが理由である。
また、全身麻酔下の手術に耐えられる状態を考慮した基準でもある。
口唇形成術
・直線縫合法:Mirault 法、Rose-Thompsom法
現在は行われない。単純に裂を縫い合わせるだけの手術。
・三角弁法:Tennison法、Randall 法、Cronin 法、Tange法
瘢痕が目立ちやすいが、四角弁法より切除量は少ない。
・四角弁法:Le Mesurier法、Wang 法、鬼塚法、Hagedorn法
切除量が多いのが欠点。しかし、三角弁法より手術創は良好である。
・回転伸展弁法:Millard法
技術・機能的に優れいる。現在はMillard法を行うことが多い。
口唇修正術
・口唇修正術:Abbe法
二次的に形態を修正手術。口唇裂そのものを閉鎖する手術ではない。
下唇の弁を上唇に移植する。審美性に重点を置き、人中やCupid’sbow の形態を付与する。
口唇裂では基本的に破裂側の口唇の長さが短く、口輪筋の走行も健常者と異なる。
よって、口唇形成術では口唇の形態とともに口輪筋の機能再建も行う術式となっている。
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